2007年1月1日、朝鮮労働党機関紙『労働新聞』、朝鮮人民軍機関紙『朝鮮人民軍』、金日成社会主義青年同盟機関紙『青年前衛』は恒例の共同社説を掲載した。(『朝鮮新報』による日本語の要旨はここ。解説はここ。『私設 朝鮮民主主義人民共和国研究室』による全文の日本語訳はここ。但し、わずかな誤訳あり。)
この共同社説は、朝鮮のその年の基本路線を提示するものである。今年の題名は「勝利の信念をみなぎらせ先軍朝鮮の一大全盛期を切り開こう」となっている。今年の共同社説では、2006年を「社会主義強盛大国の黎明が近づいてきた偉大な勝利の年、激動の年として刻まれた」と評価している。核実験の実施によって「民族的矜持と必勝の信念が鼓舞」されているとしている。核実験については、その軍事的な威力よりも、政治的な側面が強調されているようである。
2007年については、「先軍朝鮮の新たな繁栄の年代が開かれる偉大な変革の年」であると規定している。これは今年が金日成の誕生95周年、朝鮮人民軍の建軍75周年という朝鮮では祝福すべき区切りの年であることも関係している。
今年の共同社説に掲載された政策を記載された順番で見ていくと(1)社会主義経済強国建設のための攻撃戦(経済建設)、(2)国防力の強化、(3)思想意識的団結の強化、(4)党の強化、(5)内閣をはじめとする経済機関幹部の責任性と役割の向上、(6)青年団体組織の強化(朝鮮共産主義青年同盟創立80周年)、(7)民族重視の立場の堅持となる。この順番は必ずしも現実の政策の優先順位と一致しないが、経済建設の強化がトップに来たことは、経済建設と国民生活の向上が今後の朝鮮における重要な課題であること、すなわち、国民生活を向上させなければ、朝鮮民主主義人民共和国という国家の存在意義が問われる、という認識が一般化してきているということを意味している。
思想意識的団結の強化や党の強化が重視されていることは、朝鮮で進みつつあるといわれている経済の市場化、非国営セクターの拡大などに伴う権力濫用や腐敗、韓国や外国からの情報の流入による指導思想の相対化などが、現実に存在することを想起させる。
以下、今年の経済政策のポイントを抜粋して紹介すると次のようになる。
(1)国民生活向上に優先的に注力する
2005~06年に続き、今年の共同社説においても、国民生活の向上への努力を強調している。特に今年は「経済強国建設を現時期の革命と社会発展の切迫した要求であり、強盛大国の面貌を全面的に備えるための希望に満ちた歴史的偉業である。われわれは経済問題を解決することに国家的な力量を集中し、先軍朝鮮を繁栄する人民の楽園として花開かせていかなければならない。」と経済分野、特に国民生活の向上に対して注力する決意を表明している。ここでは、先軍政治が前提となっており、国民生活向上と先軍政治は矛盾しないと考えられていることに留意する必要がある。
経済建設の対象部門は、まず「以前と変わりなく農業を天下の大本として人民の食の問題解決において画期的な前進をもたらさなければならない」と農業と食糧問題の解決をあげている。次に「軽工業革命の炎を勢いよく起こし人民消費品生産を決定的に高めなければならない。」として副食品や生活必需品の増産を呼びかけている。
(2)重点部門に変更はないが、鉱業の育成に関心
重点部門については依然として「電力、石炭、金属工業と鉄道運送部門」をあげている。「先行部門が先行し、連帯的革新を起こしてこそ国の全般的経済が活性化される」との認識があるためである。さらに「今年は、経済発展の遠い将来をにらみつつ、地質探査事業を進めエネルギーおよび資源開発事業を展望ある形で行って」いくことが加わっている。これを見ると将来的な有望産業として鉱業が考えられはじめていることがわかる。鉱業を将来の経済発展ビジョンに取り入れているというのは、朝鮮の鉱業の潜在性から言うと非常に現実的であると評価できる。
(3)経済発展の方法論は自力更生
経済発展の方法論として共同社説は「自力更生はこの地に強力な自立的民族経済を建設した原動力であり、社会主義経済建設の変わらぬ闘争方式である」と自力更生を強調している。現在の厳しい国際環境では当面、外国からの投資などの対外経済協力事業は拡大できないとの見方があるためであろう。
(4)科学技術の重視と技術水準を高める動きの継続
科学技術の重視と技術水準を高めるための投資や教育対する「われわれは人民経済の技術更新・現代化も、生産と経営活動も科学技術人材を積極的に動員する方法で行っていかなければならない。」と科学技術の重視の姿勢を昨年に続き明らかにしている。同時に「教育事業に力を入れ、強盛大国建設を担当する有能で実力のある人材を多く育てなければならない」と技術水準を高めるための教育事業の重要性にも言及している。
(5)内閣の重視と社会主義原則の固守-経済管理における「実利」の重視
経済建設においては、「内閣は社会主義経済建設のハンドルを握る重大な位置と使命にあうように、戦略的な見識を持ち、経済の作戦と指揮を責任を持って行わなければならない。」と内閣の機能強化が謳われている。また、「経済事業において社会主義原則を確固として守り、経済管理を実利が出るように朝鮮式に行わなければならない。人民経済の均衡的発展を実現し、経済的テコを正しく活用することに深い関心を向けなければならない」としている。
社会主義原則を守るという記述は、現実の政治体制の選択という面で言えば、資本主義の対立概念としての社会主義体制の維持、すなわち朝鮮労働党の一党独裁を継続していくということを意味している。経済管理の面では、実利に関する記述も勘案すると、共産主義に対比した社会主義という意味での社会主義、すなわち「能力に応じて働き、労働に応じて分配する」という原則を徹底し、生産力の増強という目標のための経済改革措置を継続していくということを意味していると理解することができよう。
今年の新年共同社説から見える朝鮮社会は、核実験成功による朝鮮の国家としての地位向上を祝福しつつ、経済の現状を改善し、国民生活を向上させなければ、本当の意味での先進国、一流国になることはできないという現実の前で武者震いをしているように見える。
ここ数年経、済中心の活動報告になっていますね。去年の前半は経済がかなり回復していると聞いていましたが・・・
70年代以降経済が衰退いった理由についてどうお考えでしょうか?
2005年と2006年のミサイル発射までは、経済発展のスピードがかなり上がってきていたと思います。ミサイル発射と核実験で、その勢いがそがれてしまったと思います。
1970年代以降の朝鮮経済が苦しくなったのは、1960年代の中ソ対立によって社会主義国内での矛盾が高まったことや、キューバ危機やベトナム戦争といった国際的緊張によって軍事に対する投資を増やしたことが第1にあげられます。次に、それにともない朝ソ蜜月時代も終わり、ソ連からの経済援助が1960年代には減少したことも大きな要因でしょう。第3点としては、オイルショックによって、1970年代初めに日本や西ドイツ、ソ連から導入した借款の支払財源としていた非鉄金属などの一次産品の価格が下落し、借款を返済できなくなり、それが朝鮮の国際的な信用を失わせる結果になったため、それ以降西側諸国との経済関係が減少したこともあげられると思います。
このような状況の中で、1980年代後半においても、旧ソ連・東欧との経済関係を主にするほかなかった朝鮮は、社会主義市場の崩壊をヘッジする方途もなく、旧ソ連の崩壊の衝撃をまともに受けることになってしまいました。
簡単に言うと、こんなところではないかと思います
非常に分かりやすくコンパクトにまとめていただいて、ありがとうございました。
よく理解できました。