2008年6月、中ロ国境の旅(その5)

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撫遠の河港に上陸後、税関の建物に進んでいく。税関の前はコンクリートの広場になっていて、さわやかな川風が吹き抜けていく。ハバロフスクの空気も良かったが、撫遠の空気は都市のそれではなく、草の香りがした。

立派な税関の建物に入っていくと、入国審査場があった。船から下りた人数と旅行社が提出した名簿の人数を照合しているのか、入国までには少し待たされた。

入国手続が開始されたので、手続をしようと思ったその時、中国側の旅行社の係とおぼしき中国人が「お前は入国してはだめだ。戻ってこい。」と身振りで指示される。後から思えば無視して入国審査を済ませてしまえば良かったのだが、件の係の所に行くと、「ちょっと待て」と言われ、その係は入国審査の事務所に入っていった。

数分すると、入国審査官の上官とおぼしきおじさんをともなって出てきた。そのおじさんは私に「パスポートを出せ」といい、パスポートを受け取るとどこかへ行ってしまった。パスポートがないので入国審査を受けられずにぼーっとしていると、入国審査官から「早く審査を受けろ」と促される。「お前の仲間がパスポート持って行ってしまった」というと、何も言わなくなった。

おじさんはなかなか戻ってこない。10分ほどしただろうか、おじさんが戻ってきて事務所に来い、と言う。別室審査が始まるのか(アメリカでは何回かあるが、中国では初めて)と緊張が走る。

別室では、おじさんの他に何人かの中年男性がたむろしてお茶を飲んでいた。私が入っていくと、にこにこしながらも鋭い視線を向けてくる。とはいえ、田舎の人の善良な顔ではあった。

ここで聞かれたのは、(1)お前は元中国人ではないのか、(2)なぜここから入国するのか、(3)入国した後どこに行くのかであった。(1)は生まれてからずっと日本人だ、(2)はハルビンから新潟行きの飛行機で帰国するため、(3)はハルビン市なのだが、ハバロフスクから日本に直接帰らないのがよほど不審なようだ。

それほど険悪な雰囲気ではないので、こちらからも質問をする。(1)日本人はこの口岸によく来るか、(2)ここは国家1類口岸(第三国人も通過可能)なのに、なぜ入国にこんな時間がかかるのか。答えは、(1)昨年、何人かの日本人がやってきた。しかし、即日ハバロフスクに帰る観光客であった。今年撫遠に来る日本人はお前が初めてで、ここから入国して別の所に行く日本人は見たことがない、(2)別に問題はないけれど、ちょっと待ってね、であった。

結局、ロシアに行く前にハルビンで参加したハルビン商談会のIDカードを見せたり、カメラで撮影した内容を「任意で」見せてあげたりしているうちに、もう「行っていいよ」ということになった。この時点で45分ほど経過していた。おそらくこの間にどこか(おそらく上級の部署に)に電話をして、入国させてもいいかどうかの確認をしていたのだろう。

入国審査はものの1分で終わり、税関検査も紳士的に検査をして2分で終わった。入国管理と税関の職員が2人で建物の前まで見送ってくれたのが印象的だった。

後から考えると私の中国ビザは180日の滞在が可能なものだったので、このまま入国させるとオリンピック期間中もずっと滞在ができる。ロシアから船に乗って撫遠くんだりまで来る怪しい日本人には「法輪講」や「テロリスト」の疑いがかけられたのだろう。

このようなトラブルがあった以上、この小さな街で市場の写真を撮ったり、あちこちでお店を冷やかしたりするとスパイ容疑までかけられかねないので、この街を離れることにする(私と接触した人に迷惑がかかるので)。

税関の建物からタクシーに乗り、バスターミナルに行く。




ちょうど同江行きのバスが発車するところだったので、きっぷを買い、乗り込む。同江には知り合いの友人がいるので、その彼を訪問することにしていた。

バスターミナルを発車すると、バスは小さな街をすぐに抜け出て、片側1車線のコンクリート舗装の道路をひたすら走り続ける。



道の両側には、よく手入れされた、真っ黒い肥沃な大地が広がる。見渡すかぎりの畑と田んぼが続いていく様子に圧倒される。ロシア国境の辺境まで耕されている。ロシアでは荒れ地や原野が目立つが、中国に入ると目に入るものは耕地にかわる。



同江までの3時間半ほどの間、肥沃な大地の中をバスは走り続けた。東北振興政策の黒龍江省の重点のひとつが農業に置かれていることは知識としては知ってはいた。この3時間半の間に見た風景によって、黒龍江省における農業の重要性は単なる経済振興の問題に止まらず、中国13億の民の生存に関連する重要な問題だと思うようになった。

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